ゴータマは晩年、ヴェーサリー(バイシャリ・マガダ国に隣接するヴァッジ国内の商業都市)郊外にある林に留まる。娼婦アンバパーリの所有する林だ。高級な娼婦は富裕層に属し園林を持つほどだった。アンバパーリは以前からゴータマの教えに帰依して、この度の滞在でも供養を申し出る。
タッチの差でヴァッジ国の王族も供養を願い出るが、先約だからとゴータマはアンバパーリの供養を受けた。娼婦だから王族よりも下、男の方が女よりも上とはしない、平等を重んずるゴータマの姿が伺い知れる話でもある。
ヴェーサリーにて雨安居をされたとき(それが最期の雨安居となるのだが)、病を患い激痛に悩まされたという。そこで弟子のアナンダはゴータマに最後の説法を願った。
そこでゴータマが語りかけたのは、数多くの説法してたくさんの弟子や信者の集まりとなったが、ゴータマ自身がサンガの指導者ではない、ということだった。
ゴータマは言う、
「アナンダよ、この世でみずからを島とし、みずからをよりどころとして、他人をよりどころとせず、法を島とし、法をよりどころとして、他人をよりどころとせずにあれ」
私は私を生き抜くしかない。
そしてその、私という存在は目に見える知覚できるものでもそうでないものでも、たくさんのはたらき、因と縁によって支え支えられている、万物として一である。死んでも死なない。80年ぽっきりの人生を歩むのではなく、かぎりない命の流れそのもの。
広大な自己をあるがままに引き受けて生きる。
人間が勝手に作り上げたものに、あるいはグループになってグループでいることに満足して生きることをしない。
雨安居が終わる頃、強い日差しをさえぎるためにチャーパーラの樹に寄り添いアナンダに言う。
「この世界は美しいものだ。人間のいのちは甘美なものだ」
非常に情緒を感じる。死期をさとった人間ゴータマの目には、故郷の風景が重なって見えたかもしれない。
涅槃への道として故郷を目ざすかのような旅路でのゴータマの言葉には、それまでの教えと異なり、ある種の熱っぽさがある。
ヴェーサリーを去るとき、ゴータマは「象の眺めるようにヴェーサリーを眺めた」と言う。「アナンダよ、これはヴェーサリーを見る最後の眺めだろう」
その後、ゴータマはパーヴァー村の鍛治工チュンダの供養を受け、赤い血がほとばしりでる激しい痛みが生じた。
クシナガラに着いたゴータマは沙羅双樹の間に、頭を北に向け右を下にして足の上に足を重ねてとこに臥す。その姿を見て涙を流していたアナンダに、「泣くは、アナンダよ。努め、励め」と教えた。
さらにゴータマは自由の効かない身体をおして、教えを乞うスバッダに教えを説き、夜更けに亡くなった。
現在、亡くなったところには涅槃堂が建立され、最後の説法地にもまたお堂が築かれている。近くには荼毘にふされた場所に、アショーカ王代からあるストゥーパが、風化して塔部分はないながらも堂々と存在している。
仏の歩んだ道からは、当時のゴータマの足取りが、音と匂いと風景とともに立ちあがってくるようであり、同時にその尊さを何千何百年に渡り時の王朝や人々が伝えてきた、時の重みもまた感じる。
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インド仏跡巡礼3
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